あんなに怖かった死が、彼女の顔を見た途端に怖いものでは無くなった。


だって、愛する人を守る事が出来たんだ。そして、僕が朽ち果てる事で、その命が生き長らえるのだから。そんなに幸福な事は無いとすら思えるから。


泣きじゃくって鼻の頭と白目が真っ赤になったその子猿みたいな顔でさえ、こんなにも愛している。


何だかそう、とても……かなしい。


貴女とこの先の未来を過ごせない事が。こんなにも愛している気持ちを、もう伝えられない事が。


でも……かなしい。


貴女と過ごした時間が。くれた言葉が。想うことでずくずくと痛む胸の奥が。貴女の事が、貴女の全てが。


「エルザ!嫌だ!死ぬなよぉ」


もしもこの世に神様が本当にいるのなら、死ぬ前に、たった一つだけ僕の我が儘を聞いて欲しかった。


最期は、どうか彼女の泣き顔でなく、笑顔を見ながら息絶えたかった……な。