『そうです』とはその空気ではどうにも答えられなくて。


「いえ……ただ、聞きたくなっただけですよ」


「そうか。答えはノーコメントとしておこう」


父の答えはあまりにもグレー。限りなく、黒に近いグレーゾーン。


「さて、そろそろ私は工房に戻ろうかな」


一瞬にして元の呑気でおっとりとした口調に戻った父を鏡越しに見送り、再びプラチナブロンドに戻った髪の毛を見つめて指先で摘まむ。


「小遣いが、また染料に取られてしまう」


高校生のなけなしの小遣いは、トリートメント型の高い染料材で半分は消費してしまう。


いっそのこと、ウィッグでも買えば良いのかもしれない、とぼんやり思いながら、視界いっぱいに広がる白と赤に、重たい溜息をひとつ、洗面台の上に落とした。