「行くのね紫倉君。彼女の、所へ」


「……はい。伝えなきゃ、いけませんから」


僕のこれからの行動を察知したありさ先生は、大人の女性の柔らかな笑みを浮かべた。


「男の子ねぇ。貴方からも、美味しそうな匂いがするわ」


「あまり嬉しくない表現ですが……まぁ、そういう、事ですね」


僕もありさ先生へと笑みを向けて言葉を発し、くるりと方向転換して、音楽室から走り出した。


思えば、和真先輩と出会ってからというものの、走りっぱなしだ。体も、心も立ち止まり休息する余裕なんて無い。


走れば走る程、ずっと蓋をしてきた想いが零れた。目から流れる涙と共に、ほろりほろりと零れて、止まらない。


思えば、僕の中の君は、ずっとそれを叫んでいたのに僕は気付かないふりをしていたね。


でも、僕の中の君が、僕の体が、そして、尽きようとしているこの命がずっと僕に語りかけていた。


そう確信してしまったからもう隠せない。目を逸らせない。