夢のような恋だった


「別れて」


この時ばかりは、声が震えないように意を決して言った。
絶対に揺るがない覚悟を決めて、なるべく彼の顔を見ないようにして。


「は? なんで? 紗優!」

「お願い。別れて。もう付き合いきれないよ、智くんには」


できるだけ冷たく言わなきゃと思った。
智くんが少しの未練も感じないように。


「大学の人に告白されて。……私、彼が好きになったの。智くんより大人で、頼りがいがあって」


そんな人いない。
だけど、智くんが一番コンプレックスに思っている年齢のことを引き合いに出せば、反論できないのを知っていた。


「進路のせいかよ! 俺は」

「私がいるからって決めるなんて重たいよ。自分の進路でしょう? 自分のために決められないなんて子供すぎる」


とても傷つけたと思う。

視界に入った彼の瞳は悲しく歪んでいて、今でも思い出したら泣けるくらい私も辛かった。


だけど、後悔はしていない。

あの時、彼に自分の為に進路を選んでもらうには、あれしか方法が思いつかなかった。