夢のような恋だった



 別れたきっかけは何? と問われれば、それは互いの卒業後の進路なのだと思う。

私は自宅から通える大学の文学部に進学した。

なりたい職業は絵本作家だったから、本当は大学に行く予定ではなく、専門学校に行ってイラストの勉強をしながら投稿しようと思っていた。

その意志を覆したのは、三年の時の担任からの『葉山の成績なら若葉大学狙えるぞ』という言葉に強く反論出来なかったことと、
お父さんからの『大学で学ぶのは学問だけじゃないぞ。行ける頭があって行けるお金が出せるのだから選択肢の一つにいれてみてもいいんじゃないか』という言葉だ。


 後からお母さんに聞いた話によると、お父さんは私に比較的時間に余裕のある四年制大学で『遊び』を学んで欲しかったらしい。

どんな仕事についたとしても、真面目なだけでは息がつまり潰れてしまう。

車のハンドルに遊びがあるのは、そのくらいの緩みがないと予期しない動作をした時に大事故に繋がってしまうからだ。
お父さんは私に、人間的にもう少し緩みを持てと言いたかったらしい。

 その時はまだお父さんの意図は理解していなかったけれど、経験として大学に通うのはいいんじゃないかと思い始めて受験した。

通うのは自宅からだったし、智くんと離れなくて済むのも、決めた一因にはなっていた。