夢のような恋だった



「それはいいんだけど。よくここが分かったね」

「住所は昔彩治に聞いたの。……実は前にも来たことあるんだ。お兄ちゃんと紗優ねえちゃんが別れたって聞いて。お兄ちゃん腑抜けみたいになっちゃってさ。
文句言いに行こうって思って、休みの日に壱瑳と冒険がてら電車とか乗り継いで」

「小学生の時?」

「うん。だって許せなかったんだもん。お兄ちゃん可哀想だった」


端々にささやかれる智くんの姿が、頭に浮かんで来て胸がズキズキ痛む。


「……でも、紗優ねえちゃんがちっとも幸せそうじゃなかったから乗り込んでいくのやめたの」

「え?」

「私と壱瑳が来た時、ちょうど紗優ねえちゃんも何処かから帰ってくるところだった。
見た目にもやつれてたし、泣いてるみたいだった。私と壱瑳、声かけられなくて立ち止まったの。そしたら壱瑳が『帰ろう』って言って、だからそのまま帰った」


琉依ちゃんの家からここまで来るのは、小学生には大冒険だ。
そこまで琉依ちゃんにさせてしまったことが申し訳ないような気がした。


「……ごめんね」


私が呟くと、琉依ちゃんが縋るような目を向けてくる。


「なんでお兄ちゃんと別れちゃったの? お兄ちゃん、紗優ねえちゃんに変なことした?」

「してないよ。智くんはいつも一生懸命だったし優しかった」