「茂くん?」
「涙、拭いて。俺送ろうか?」
吐き出される息はお酒臭い。
多分私も、同じくらい臭いのだろうとは思うけど。
「い、いいよ。違うの。草太くんと喧嘩なんかしてないし。今一人になりたいから構わないで」
「でも泣いてるじゃん。放っておけないよ」
「いいの。……タクシー拾うから平気」
「だって。……じゃあタクシー呼ぶまで一緒にいるよ」
茂くんはお友達の輪の中に戻ると、事情を説明し始めたようだ。
この隙に逃げられたらいいのだけど、私も酔いが回っていて走ったりは出来そうにない。
タクシーを拾う、なんて本当は言い訳だったのだけど。
茂くんは私を植えこみの近くに座らせると、電話でタクシーを呼んでくれた。
「流しの待ってるより早いから」
「……ごめんね。ありがとう」
草太くんも茂くんもだけど、社会人だからかこういう時の動作がスマートだ。
いつまでも学生の頃みたいにもたついてる私とは違う。
「ホントに草太と喧嘩したんじゃないの?」
「うん。違う」
「じゃあなんで泣いてるの」
「なんでもない。草太くんは関係ないから」
「……紗優ちゃん、本当に草太のこと許せたの?」
浮気のことか。
私は黙って頷くだけにとどめた。



