夢のような恋だった



「でも、今の子ってませてるから、そういうの人気出るんですよ? それにお母さん世代が食いつくしね」


にっこり笑う一ノ瀬さんのお陰でようやく調子が戻ってきた。


「初恋の人と似てるなら好みなんでしょ。頑張っちゃえば、葉山さん」

「あ。はは」


私に彼氏がいるのを知らない一ノ瀬さんは無邪気に笑って腕を引っ張る。
基本気がいい優しい人なんだよなぁ。

でも確かに、こんなことで落ち込んでたら今後一緒に仕事なんてできない。
気合を入れ直して、私は顔を上げた。
だけど、席に戻ると、智くんの姿が消えていた。


「あの、中津川さんは」

「あいつ、急に用事思い出したって帰ったよ。ごめんね」

「いえ、私のほうが失礼をしてしまって。……怒ってませんでしたか」

「ううん。大丈夫。それより俺、葉山さんの絵本読ませてもらいましたよ」


幾多さんが、にこやかな笑顔で話をすり替えてくれた。
きっと気を使ってくれたんだろう。


でも、気分がズーンと下がっていく。

……帰っちゃったんだ。

ホッとした反面、胸の奥にもやもやしたものが残っている。
私はどうしたいのよ。


「智のことは気にしなくても大丈夫だよ。さあ飲んでください!」

「すみません」


苦いお酒を何とか喉に流し込む。
炭酸が体中に攻撃を仕掛けてくるみたいで苦しかった。