泣けるところ。どこか一人になれるところ。
今の状況ではそれは化粧室しかなく、私はかけだすようにして飛び込んだ。
個室に入った途端に、涙腺が決壊した。
智くん、智くん。
初めましてじゃないよ。
あんなに一緒にいたじゃない。
甘い思い出が黒く塗りつぶされたみたいで、心の拠り所が無くなる。
こんな風に他人行儀にされるなら、会いたくなんか無かった。
会えなかった頃より辛い。
私達、今、一番遠いところにいる。
しばらく籠っていると、一ノ瀬さんの声がした。
「葉山さぁん、大丈夫ですかぁ?」
「だ、大丈夫。ごめんなさい」
涙を拭って返事をする。一ノ瀬さんは立ち去る気配がなく、私はなんとか顔を整えて個室から出た。
「彼、びっくりしてましたよう? なにか嫌なことでもされたんですか?」
「……違うの。私が悪いんです。ビールこぼしちゃったし。……その、昔の知り合いに似てたから驚いちゃって」
「なーんだ。でも泣くなんて。もしかしてそれって初恋の人だったりしたんですか?」
「うん。そう……かな。……大事な、初恋の人に似てたんです」
「きゃー。なんかロマンスー。葉山センセーの話ってちょっとそういうの多いですよね。私好きなんです!」
「童話と絵本の中間だって山形さんにはよく言われます」



