夢のような恋だった



「俺、紗優さんと結婚したいんです」


あれ?
いきなりそっちにいってしまったけど。

驚いて私まで智くんを見てしまった。


「……でも、俺はまだ働き始めたばかりで貯金もないんです。まだこんなふうに来る資格なんて無いんですが、先日の件もあって心配で、その、ついていたいというか。一緒にいたいというか。……つまり、紗優さんと一緒に暮らしたいんです」


今度はお父さんが固まった。
智くんが頭を下げたから、私も一緒に下げてちらりとお父さんを伺う。

するとお父さんは口元を抑えて俯いた。

その肩が小刻みに震えている。
怒ってるのかな。それとも泣いてる?

お父さんが次にした行動は私のどちらの予想とも違った。

「ぷっ」と息を吐き出したと同時に、堪え切れないように笑い出す。


「はは、あはは。ごめんごめん、ちょっと驚いた」

「お父さん、笑うとか失礼よ。智くん、すっごく真剣に頑張ってるのに!」


むしろ私の方が怒鳴りだす始末だ。


「いや、てっきり結婚するって言いに来たのかと思った。スーツなんか着てくるし」

「気持ちはそうです。ただ先立つモノが無いだけで」

「だから、同棲の許可を貰いに来たって? 君は真面目なんだか馬鹿なんだかよくわからないよな」


お父さんは身を乗り出すと、意地悪な笑い方をする。