夢のような恋だった


玄関で呼び鈴を押すと同時に扉が開いた。出てきたのはお母さんだ。


「いらっしゃい。……智くん、久しぶりね。紗優がいつもお世話になって」

「お久しぶりです。俺のほうが世話になってるんです。……あのこれ、良かったら」


お菓子の箱が、頭を下げながら差し出す彼の手からお母さんの手に移る。
遠い親戚が来た時みたいな社交辞令におかしくなってしまう。


「さ、入って。お父さんも待ってるから」


促されてリビングに向かうと、待ち構えているのはお父さん。
サイちゃんは今日は部活でいないみたいだ。

お父さんは、ぎょっとした目つきで智くんを見ると口元を引くつかせる。


「やあ。この間はどうも」

「こんにちは」


この間は凄く仲良さそうだったのに、なんで今日はこんなに硬い感じなの?

智くんの隣に座りつつ、私は若干恨みがましい気持ちでお父さんを見つめた。

やがてお茶を入れてきたお母さんが、買ってきたお菓子を一緒に出してくれたので配るのを手伝う。

隣の智くんは固まったままで、お父さんは威圧的な視線を投げたままだ。
空気が重いよ。予想外の緊張感に私の心臓は早鐘を打ち続けている。


「さ。さっさと話をしちゃいましょ」


まるで仕事の話を振るくらいの軽快さで割って入ったのはお母さんだ。


「話があってきたんでしょ? 智くん」

「あ、はい。あの……」


促されて、智くんの金縛りは溶けたみたいだ。

拳にグッと力がこもったと思ったら勢い良く話しだした。