夢のような恋だった


当たり前のことが、大人になるとできなくなる。

それは案外普通にあることかもしれない。

なんでも自分でできるようになって過信してしまうのかな。
自分が悪いことなどするはずがないと。

だから思い通りに行かないことが人のせいみたいに思えてしまうのかしら。


「草太に対して、ライバル心もあったし憧れもあった。あんなふうに堂々とできたらって。
……でも、草太より格好いい男なんてたくさんいるな。君のお父さんや、彼氏みたいに」

「茂くん……」


「今度草太がおかしなこと言い出したら、俺が止める。……本当にごめん」


本屋併設のカフェだから、中牧さんが時折こちらに視線を向けてくるのを感じた。
茂くんにとって、ここで私に対して頭を下げるのはどれほど勇気のいる行為だったのだろう。

最後にもう一度頭を下げた彼に、「もういいよ」と素直に言えた。


茂くんが帰った後、視線を上げると中牧さんと目が合った。
彼は気まずそう口の端を曲げ、目をそらす。

きっかけが心ない噂だったとしても、中牧さんには中牧さんなりに私に対して不満があっただろうと思うから、敢えて話しかけはしなかった。


私は私にできることをするだけだ。