夢のような恋だった



「……今度紗優に何かしたら殺すよ」

「物騒だな。もう何もしねぇよ」

「本気だから。今度紗優を無くしたら、俺はもう正気じゃいられないと思う。人殺しだって怖くないよ」


智くんがどんな表情をしていたのかは私からは見えない。
でも、草太くんが口を引くつかせて後ずさったところを見ると、それなりの凄みがあったのだろう。


「もう行こうぜ、草太。……紗優ちゃん、ごめんな」


バツが悪そうに茂くんが草太くんの肩をたたき、私に頭を下げた。
草太くんはまだ不満気な顔のまま、茂くんに引きずられるように戻っていく。

二人の姿が消えて、残る私達は皆が皆、はあと大きく息をついた。
最初に口を開いたのはお父さんだ。


「……道々で彩治に事情は聞いたが、どっちが紗優の彼氏だったんだ?」

「草太くんの方」


言った途端に、お父さんが眉を寄せる。


「男の趣味が悪くなったんじゃないか?」


それ、誰かにも言われたな、と思ってちらりと智くんを見ると、うんうん頷いている。

ホントに、返す言葉がない。
これで、最初草太くんがお父さんに似てると思ったなんて言ったら怒られそう。