電話にでると、ハアハアと荒い息が聞こえてくる。雑音も一杯。どうやら動きながら通話しているようだ。
「智、くん?」
『紗優、無事か?』
呼吸の合間に切れ切れに告げられる言葉。
「うん。智くんの電話に助けられた」
『今、何処? はあ……本屋のあたりまでは着いたんだけど』
「すぐ近くの路地に入ったところ」
今日は忙しいって言ってたのに、また抜け出して来てくれたんだ。
誘導すると智くんはすぐにわかったようで、足音が近づいてくる。
表情が見えるほど近くまで来た智くんの、凄く心配そうな顔を見た途端、私の中で何かが緩んだ。
みるみるこみ上げてくる涙をもう止めることが出来ない。
「智くん」
「紗優」
彼が駆け寄るより先に、立ち上がって抱きついた。
同時にまぶたから涙が決壊する。
「怖かった、怖かったよ」
わんわん泣く私を抱きとめながら、智くんは呼吸を整え、私の背中を擦りつづける。
「ん。もう大丈夫だからな」
嗚咽を上げながら、頷くことで返事をする。
「ごめん、俺来るの遅くて」
そんなこと無い。
ちゃんと助けてくれた。
今だってそう、智くんがきてくれなきゃ、きっと泣けなかった。



