夢のような恋だった


「智くんは、今年から今の会社に入ったの?」

「うん。紗優は?」

「私は大学卒業してからあそこでバイト。その頃には本が一冊出せてたから、他に絵本雑誌の原稿書いたりしながら暮らしてた」


ラーメン屋さんは混んでいてカウンターしかあいていなかったから、時折腕がぶつかってそれだけでドキドキする。

浮かれた気分で、彼のこれまでと自分のこれまでを話した。

情報系の学部に入った彼は、大学でも陸上を続けながら資格をとったりしていたのだという。


「でも、今一緒に仕事してる幾多は専門学校出てるんだけど、アイツ凄いんだ。簡単なミニゲームなら独りででも作れちゃうんだぜ?」

「へぇ」

「年は下になるんだけど、俺のほうがモノ知らずで頭上がらない」


屈託なく話してくれる智くんを見ているだけで楽しい。

でも、肝心なことは聞けなかった。


“彼女は居るの?”

“まだ好きって言ったらどうする?”


さっき抱きしめてくれたことを、私はいいように解釈してしまってもいいんだろうか。
それとも、私が泣きじゃくってるから抱きしめてくれただけなんだろうか。

はっきりしたことを言い出せないまま、ご飯を食べ終えてしまう。

せっかく話せるようになったのに、変なことを言ってまた智くんがぎこちなくなったらと思うと勇気が出ない。