夢のような恋だった



「……これでいい?」


顔を上げると目が合った。私と彼の間にあるぎこちない空気が視線の間に凝縮して立ちはだかるみたい。

心臓、苦しい。
喉も詰まって上手く言葉が出せない。
会いたかったけど会うとこんなに苦しいなんて。


「うん。ありがと。……あのさ」

「智くん、ご飯食べた? 良かったら、外で食べない? ……あの、私ここ職場だから、その」


なんとなくだけど、人の視線が気になる。
伝えたいことを上手く伝えられなくなりそうで、ここから出たかった。


「ああ、そっか。じゃあ出ようか」


ここのカフェは最初に支払いをしてしまうのでお互いにカップの乗ったお盆を持ち、私はまだカップにコーヒーを残したまま返却口に下げた。

店員の視線を気にしながら本屋の中を抜け冷房の効いた店内から外にでると、途端に湿気を含む空気がまとわりついてくる。


「とりあえず駅前行こうか」


智くんがそう言って、先を歩き出した。

外は黄昏の時間も終わり暗くなってきていて、通りを走る車のライトが時折私達を照らしていく。

見上げる彼の表情は一貫して固いままだ。

どうして会いに来てくれたのだろう、という思いよりも、もう私には笑いかけてくれないんだろうかということの方が気になる。