夢のような恋だった



「……サインくれる?」


そして差し出された絵本。
ご丁寧にマジックまで持ってる。

口実じゃなく本当にサインが欲しかったんだろうか。

私なんかの?

智くんの気持ちが全く読めない。


「サイン書くほど、立派じゃないよ」

「ちゃんと世にでる本を書いてるんだから立派でしょ」

「でもサインってかいた事ない。そんなこと頼まれたの初めてだもん」

「普通に名前書くだけでいいよ」

「……うん。あ。買ってくれてありがとう」


お礼を言って、背表紙を開く。

でも本当にサインなんて書いた経験がない。
どう書いたらいいか迷って、手が止まってしまう。

それに指先に智くんの視線が注がれていて、それを意識するだけで指先が震えてくる。
書き出せないまま数分がたち、智くんはため息をついた。


「ごめん。嫌だった? ならいいよ」

「あ、ち、違うの。ただ私、本当に書いたことなくて」


慌てて、書き始める。
自分の名前をただ大きく書いただけのもの。
サインと言うよりは持ち物への名前付けみたいな感じに見える。