「待ってる」
本気で驚いたり嬉しかったりする時って、声がでないものだったんだ。
どんなに頑張っても声がかすれて形にならず、私は頷くことだけで返事をした。
その後、いつの間にか並んでいたお客さんの応対を何とかこなして、レジを交代してもらう。
待ち構えていたようにやって来た茂くんには頭を下げた。
「ごめん。とにかく私からは話すこと何もないから」
「いいの? 今のままだと紗優ちゃんが悪者になってるよ」
なっていたとしても、草太くんの周りの人だけだ。
普段私と何の接点もない人たちに、なんて思われたって問題ない。
「いいの。それで草太くんが満足するなら」
「紗優ちゃん、俺は……」
「茂くん、私ね、気づいたの。本当に好きじゃない人と付き合ったってなんにもならない。私、草太くんが好きだって思ったよ? でも本当はそうじゃなかった。好きになれたらいいなって思ってるだけだった」
茂くんはぎこちない表情で私を見つめた。
「“好き”って努力してそう思うものじゃないんだよ。それに気づかず草太くんと付き合った私も悪いの。だからもういいのよ」
笑ってみせるとまだ何か言おうとしたけれど、私はそれを遮った。
「とにかく今日は忙しいから。ごめんなさい」
「紗優ちゃん!」
私は茂くんに手を振って事務所に入った。
その途端、カフェに居るはずの智くんのことが気になって仕方ない。
どうして急に会いに来てくれたの。
絵本まで買ってくれて。
新しいプロットを読んだの?
それだけで分かったの?
私の言いたいこと。
胸がはやる分だけ、動きがぎこちなくなるのはなぜなのか。
急いでいるつもりが逆にもたもたになりながら、なんとかタイムカードを押した。



