夢のような恋だった



「草太、酷いこと言ってたよ」

「だとしても仕方ないわ。私も勝手だったのよ。……あの、何も買わないなら避けて……」


なんとか帰ってもらおうと頭を巡らせていると、彼の後ろから男の人の低い声が割り込んできた。


「邪魔」


耳を疑った。
この声には聞き覚えがある。

茂くんが振り向くことで、私からも彼の姿が見えるようになった。

くっきりした二重の瞳とくせ毛の髪、怒ってるみたいな不貞腐れたみたいな表情のその人は。


……嘘でしょう? 
智くんだ。


「会計したいんだけど。雑談なら他所でやってくれないかな」

「あ、すんません」


智くんの声に、茂くんはすごすごと脇に避ける。
私も、ぎこちなくしか動かない体を無理矢理折り曲げて、とりあえず謝罪をする。


「すみません、お待たせしました。えっと……え?」


差し出された本を見てまた驚いた。

私の絵本だ。

一冊目の絵本。今から三年ほど前に描いたもの。
もう児童書コーナーの書棚で沢山の本の間に挟まれているような全く目立たない本なのに。


「……これ」

「仕事何時に終わるの」

「え?」

「サイン……欲しいんだけど」


呆けた私に千円札を二枚差し出した彼は、お釣りとレシートを受け取ると書店内に併設されているカフェを指さした。