「うぉぉお!綺麗だな!ねー、トモヒー!」

ハッシュが運転しながら呑気に言った。
ヤビツ峠の中腹あたりにさしかかり、相模平野の夜景が時より見える。
いつしか俺は、ショットガンを抱き締めるように持ちながら小さく震えていた。
「なに黙ってんのー!?」
「うるさい!」

やがてヤビツ峠の頂上を登り終え、車が一本通れるくらいの裏ヤビツと呼ばれる道にさしかかった。
車の2つのライトしかない灯りが、鬱蒼と茂る暗黒の森を照らす・・。
「俺はここで頭が人間の犬を仕留めたことがあったよ。その時は・・」
ハッシュが手負いの人面犬との戦いの話をしだした。
今となると、ハッシュの言っている武勇伝が本当にあった話のように聞こえる。
自分は、適当に相槌をうちながら得たいの知れない恐怖と戦っていた。

「橋本・・今日は・・ですか?」
「え?何?」
ハッシュが何か言ったので聞き返す。
「どうした?」
「今、なんか言った?」
ハッシュはしばらくしてニヤッと笑った。
「圏内に入ったぞ。」
そう言った・・。