- 2 『ある少年が聞いた噂』
少年は幼いながらも孤児だった。
名前はユーリと言う。
同じ様な境遇の孤児と一緒に生きる為に仕方無く、盗みを始めとする犯罪に手を染めていた。
その日もいつものように街をぶらつき、金持ちの金を盗んだ。友達とバカ騒ぎをしながら自分達が住んでいるスラムに帰ろうとしていた。
しかし、何時もは閑散としている路地裏に警官と野次 馬が沢山いたのだ。警官にスリがばれたら捕まってしまう。そんな安易な考えが皆の頭に走った。
「君達!!」
しかし運悪く、警官に声をかけられた。
皆が考えた事は同じだった。
このままシラを切り通そう。
「悪いが、この辺で怪しい人を見なかっ たかい?」
「怪しい人? そんなのここらじゃウ ジャウジャいるよ」
スラムに住んでいるユーリ達にとっては怪しい人間なんて毎日のように会っている。たまに盗んだ物の売買にも顔を出して生きているのだから。
困った顔をした人の良さそうな警官を見て『この人は苦労する』人だと認識したユーリ。この荒んだ世の中でこの人みたいなお人好しは馬鹿をみる。
不意に悲鳴が聞こえた。警官の後ろを見てみる。そこには常人ならば気を失ってしまうであろうほどに赤く染め上げられた地面があった。盗賊か殺し屋だった人間らしき肉の塊は今や誰か区別がつけられないほどにズタズタに裂かれ、引きちぎられていた。まともな人間がこんな事を出来るはずがない。流石のユーリでさえ、息を飲んだ。
「な、貴様何者だ!」
数メートル離れて立っていた別の警官が細い路地に銃口を向けた。
「手を挙げて出て、」
警官が最期まで言い終わる前に赤い液体がその首もとから飛び散った。声を上げる間もなく、一瞬だった。
路地から出て来たのは黒猫。そして縫いぐるみを持った青年だった。明らかに他と雰囲気の違うそれに後ずさる。青年の金色の目玉がこっちを捕らえたのが解った。逆方向に走り出す。逃げなければ殺されると本能が叫んでいた。
走っていたユーリの前に何かが落ちてきた。
さっきの警官の生首だった。
「っ!」
声にならない叫び声がユーリの喉から漏れた。
友達が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。尻餅をついてしまったユーリにはもう、逃げ延びる術は残されていなかった。
青年の手に握られた双剣の一方がユーリの目に突き刺さる、
「ラディ、止めろ。」
ぴたりと止まった剣先。後、数センチの距離。
「…………殺す」
「止めろと言っている。やりすぎだ」
呆れた声音が血にまみれた路地に響いた。別の路地から姿を現したのは銀髪の眼帯の男だった。
「警官は殺すなと言っただろう?」
「…………見られたから、」
「まぁ、どちらにせよ俺が殺ってたが な。掃除屋に金貨十枚からの依頼を出してくれ」
頷いた青年は瞬きをした一瞬で、姿を消した。驚きと恐怖から言葉も出せないユーリ達を見下ろす男。
ユーリには解った。この男は殺し屋だ。それもそこらでのさばっているようなチンピラ擬きではなく、どこかに所属している奴だと。何時も見ている馬鹿みたいな殺し屋とは格が違う。雰囲気、出で立ち、部下の扱い方までが別次元だと感じた。
「お前らこの事は誰にも言うなよ。他言すればお前ら殺さなきゃならないのは俺だからな、その時は肉片も残さねぇから覚悟しておけ。」
ユーリは何故かこの殺し屋に憧れを抱いていた。
この男の美しさまでも感じる鋭さに、姿に。
「…来たか。」
男は警官の生首を素手で掴むと路地に投 げた。
「フェイス、金貨十枚でどうだ?」
「ダメダメ。二十枚は貰わなくちゃね」
嗄れた低い声だった。愉快そうな色が混じっている。
これは取引きなのだろう。人の人生と遺体を巡った彼等にとっての日常茶飯事の取引き。ユーリ達にとっての日常茶飯事とはかけ離れた残虐な思考。
「生憎手持ちにゃ、十五枚しかない」
「部下の不祥事だろう? 上司のアンタが面倒みてやらなきゃ駄目なんじゃないかい? 化け猫が懐いているのはアンタだけなんだからねぇ」
「俺が払わなかったらラディンを脅すって? アンタの首が地面に転がるぜ」
楽しげな笑い声。ユーリには悪魔の笑い声に聞こえた
「解ってるのかい? 首を斬られるのはアンタだよ?」
声に隠された殺気は冷たいナイフのようだった。
「リストの隊長さんとまともに殺り合って生きてたのは アンタぐらいさぁ…だけど、今じゃあ鎖で繋がれた飼い犬じゃないか……アンタが負けるのは目に見えてるよ。この老いぼれの目でもね」
「……いざとなったら鎖ぐらい引きちぎってやるさ。
それぐらいの事は出来るし、覚悟もある」
「…………そうさねぇ、アンタとの取引きで値段をつり上げたワシが馬鹿だったよ。金貨十五枚だ。」
「結局十五枚なんだな。」
会話はそれっきりで、人の気配も姿も忽然と消えていた。
ユーリ達はただ呆然と立ち尽くしていた。
囗――――――――――――囗―――――――――――――囗
囗――――――――――――囗―――――――――――――囗
少年は幼いながらも孤児だった。
名前はユーリと言う。
同じ様な境遇の孤児と一緒に生きる為に仕方無く、盗みを始めとする犯罪に手を染めていた。
その日もいつものように街をぶらつき、金持ちの金を盗んだ。友達とバカ騒ぎをしながら自分達が住んでいるスラムに帰ろうとしていた。
しかし、何時もは閑散としている路地裏に警官と野次 馬が沢山いたのだ。警官にスリがばれたら捕まってしまう。そんな安易な考えが皆の頭に走った。
「君達!!」
しかし運悪く、警官に声をかけられた。
皆が考えた事は同じだった。
このままシラを切り通そう。
「悪いが、この辺で怪しい人を見なかっ たかい?」
「怪しい人? そんなのここらじゃウ ジャウジャいるよ」
スラムに住んでいるユーリ達にとっては怪しい人間なんて毎日のように会っている。たまに盗んだ物の売買にも顔を出して生きているのだから。
困った顔をした人の良さそうな警官を見て『この人は苦労する』人だと認識したユーリ。この荒んだ世の中でこの人みたいなお人好しは馬鹿をみる。
不意に悲鳴が聞こえた。警官の後ろを見てみる。そこには常人ならば気を失ってしまうであろうほどに赤く染め上げられた地面があった。盗賊か殺し屋だった人間らしき肉の塊は今や誰か区別がつけられないほどにズタズタに裂かれ、引きちぎられていた。まともな人間がこんな事を出来るはずがない。流石のユーリでさえ、息を飲んだ。
「な、貴様何者だ!」
数メートル離れて立っていた別の警官が細い路地に銃口を向けた。
「手を挙げて出て、」
警官が最期まで言い終わる前に赤い液体がその首もとから飛び散った。声を上げる間もなく、一瞬だった。
路地から出て来たのは黒猫。そして縫いぐるみを持った青年だった。明らかに他と雰囲気の違うそれに後ずさる。青年の金色の目玉がこっちを捕らえたのが解った。逆方向に走り出す。逃げなければ殺されると本能が叫んでいた。
走っていたユーリの前に何かが落ちてきた。
さっきの警官の生首だった。
「っ!」
声にならない叫び声がユーリの喉から漏れた。
友達が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。尻餅をついてしまったユーリにはもう、逃げ延びる術は残されていなかった。
青年の手に握られた双剣の一方がユーリの目に突き刺さる、
「ラディ、止めろ。」
ぴたりと止まった剣先。後、数センチの距離。
「…………殺す」
「止めろと言っている。やりすぎだ」
呆れた声音が血にまみれた路地に響いた。別の路地から姿を現したのは銀髪の眼帯の男だった。
「警官は殺すなと言っただろう?」
「…………見られたから、」
「まぁ、どちらにせよ俺が殺ってたが な。掃除屋に金貨十枚からの依頼を出してくれ」
頷いた青年は瞬きをした一瞬で、姿を消した。驚きと恐怖から言葉も出せないユーリ達を見下ろす男。
ユーリには解った。この男は殺し屋だ。それもそこらでのさばっているようなチンピラ擬きではなく、どこかに所属している奴だと。何時も見ている馬鹿みたいな殺し屋とは格が違う。雰囲気、出で立ち、部下の扱い方までが別次元だと感じた。
「お前らこの事は誰にも言うなよ。他言すればお前ら殺さなきゃならないのは俺だからな、その時は肉片も残さねぇから覚悟しておけ。」
ユーリは何故かこの殺し屋に憧れを抱いていた。
この男の美しさまでも感じる鋭さに、姿に。
「…来たか。」
男は警官の生首を素手で掴むと路地に投 げた。
「フェイス、金貨十枚でどうだ?」
「ダメダメ。二十枚は貰わなくちゃね」
嗄れた低い声だった。愉快そうな色が混じっている。
これは取引きなのだろう。人の人生と遺体を巡った彼等にとっての日常茶飯事の取引き。ユーリ達にとっての日常茶飯事とはかけ離れた残虐な思考。
「生憎手持ちにゃ、十五枚しかない」
「部下の不祥事だろう? 上司のアンタが面倒みてやらなきゃ駄目なんじゃないかい? 化け猫が懐いているのはアンタだけなんだからねぇ」
「俺が払わなかったらラディンを脅すって? アンタの首が地面に転がるぜ」
楽しげな笑い声。ユーリには悪魔の笑い声に聞こえた
「解ってるのかい? 首を斬られるのはアンタだよ?」
声に隠された殺気は冷たいナイフのようだった。
「リストの隊長さんとまともに殺り合って生きてたのは アンタぐらいさぁ…だけど、今じゃあ鎖で繋がれた飼い犬じゃないか……アンタが負けるのは目に見えてるよ。この老いぼれの目でもね」
「……いざとなったら鎖ぐらい引きちぎってやるさ。
それぐらいの事は出来るし、覚悟もある」
「…………そうさねぇ、アンタとの取引きで値段をつり上げたワシが馬鹿だったよ。金貨十五枚だ。」
「結局十五枚なんだな。」
会話はそれっきりで、人の気配も姿も忽然と消えていた。
ユーリ達はただ呆然と立ち尽くしていた。
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