「あと…まあ寂しいし」
「…わかんないです…」
「え?」
呟いた言葉に、耳を疑う。
「お前、ご主人さまに捨てられたら嫌じゃないのか?」
「…嫌だけど、仕方ないことって思います。
むしろメイは役立たずだし、いない方がいいんじゃないかって」
「……ふぅん」
興味深そうなのは、リルだった。
顎に手を添え、爛々とした瞳で人間観察をする。
「なんでそう思うのですか?そう言われたのですか?さっきも言ってましたけど、捨てられることが憎くないんですか?」
「……えとぉ…質問が多くて…」
頭を抱えながら、お友達が食いついたので丁寧に回答していく。
「メイ、本当になにもできないんです。
教えてもらわないとお勉強もできないし、お料理はご主人さまがさせてくれないし。
…“お兄ちゃん”達みたいに優しくも強くもない」
「……自己評価が低いのでしょうか。私はその胸部だけでも十分価値があるかと」
「リル、親父みたいになってるぞ」
「これ、ティンが言ったら二度と口を聞きませんから」
「り、理不尽…」
だってほかの女に興味を持たれたら嫌ですもの、と小さく呟いた。
「…続けると、今のご主人さまには言われたことはないです。今のところ、ですけど…」
「その言い方だと、ほかには言われたんですね」
「わぁ、頭いいですー!リルさんって本当かっこいいですっ」
諸手を挙げて喜ぶ場面じゃないのだが。
「えっと、まずはお母さんに言われました。それから、施設のマザーにも」
その言い方だと捨てられたのだろうか。
お母さんとやらに。
痛々しい過去に、つい眉を歪めた。
「それで、旦那さまにも。
メイには価値がないって仰って、メイを捨てて行きました」
「旦那さま?ご主人さま以外にも主人がいたのですか?」
「えーと、はい。そーです…。もとはその人に施設から引き取られました」
「名前を伺っても良いですか?」
「え!?名前…思い出せないなぁ…うーんと…」
必死に宙を睨んで、思い出そうと奮闘する。
無理させてはならないと、リルが止めようとして。
「る、ルコーラ・ヒューアスさまです!」
固まった。
我が耳を疑う言葉に、目が点になる。



