「あ…あら…」



呆然とした声が聞こえる。

目の前には頭を抱えたツインテールの女の子。

自分と年の変わらない女の子は、恐怖にガタガタと震えていて、さながら小動物のようだった。


そして、声の主一一リルは嬉しそうに笑った。


「あらあら、何か匂うと思ったら…
こんなところにあの人ったら、子ウサギちゃんを飼ってましたわ」



「う、さぎ?って、震えてんじゃん!リル!」

「まあ大変、よほど怖かったのですね」


そっと頭を撫でられた。

びくんと身を固めるが、優しい手のひらにだんだん警戒心が溶けてくる。


「ごめんなさいね、怖い思いをさせてしまって…あなた、お名前はなんて言うんですか?」


「ふぇ…く、国崎…メイ…です」

顔をあげて手のひらの主を見上げた。


一一綺麗な人だった。


ルイと同じ金髪に、燃えるような赤い目。

優しく微笑む姿は、さながら天使のよう。


近くにいる男の子は、ミルクティー色の髪の毛に女の子っぽい顔をしていて、暴力とは無縁な雰囲気である。


怖くない人。


メイがそう印象づけるのに、じかんはかかなかった。

「メイちゃんって言うのですね。
私はリル・ドリュール。この家に居候している身ですの。
こちらはティン・ニグラス。私の…そうね、恋の奴隷と言ったところかしら」

「くだらないこというな!」

「恋の…奴隷?」

「覚えないで!頼むから!俺はただの家来兼護衛だ!」

「ああ、外国人と言っても日本出身ですし、ティンに至っては元日本人ですわ、気を張らないで結構です」


少しでも警戒を緩めようと喋ってくれる。
メイにはそれが新鮮で、申し訳ない気がした。


「あの…め、メイもハーフなの…だから気を張らないでって…そのぉ…」


何を言えばいいのかわからない。

当然といえば当然だった。

メイが同年代の子と接するのは、何年振りか知れないのだ。

嫌われたくないと瞬時に思って、変なことを喋ったことに後悔をした。

しかし、彼女はそんなメイにも優しかった。


「そう、ハーフなんですか。
教えてくれてありがとうございます」


「あ…」
自分の発言に感謝をされた。
それに驚いて、そして、嬉しかった。