◇◇◇


その日は、ルイの仕事が長引くと元々言われていたので、まったく心配ではなかった。
心配ではなかったが、寂しかった。

「………うう、早く帰ってきてほしいです…」

遅くなると言われると、長く感じた。

勉強を放り投げてソファになだれ込む。
少し残るはルイの匂い。
胸いっぱいに吸い込んで、泣きそうになった。

(昨日のご主人さまは変だった…)

胸をかすめる、不安。
逃げるように外を飛び出して、持ってきたのは緩い紅茶だった。
冷めてた。
何かあったのだろうか。

(…もしかしたら、メイのこと、飽きたのかなぁ…)

なんの面白みもない女だとは自覚していた。
話に聞く野崎さんみたいになんでも出来る人ではないし、そこまで美人とは到底思えない。
この間みた恋愛ものの映画に出てくる女の子とは似ても似つかない。

(…捨てられちゃうのかな)

それならば、別にいい。
捨てられることくらい慣れている。
3度目だからって、臆することなど何一つない。

そう、3度目だからって…。

「…ん?」

外が騒がしくなった。
メイドか何かだろうか。
しかし滅多にこの近くを通ることはないのに、珍しい。

耳を傾けて、メイドにしては声が幼い気がした。

そして急に怖くなる。
知らない人。
もしかして、居候している人とやらだろうか。

(近づいてきてる…!)

首の裏から変な汗が出てくる。
どうしたらいいのかわからなくって、とりあえず天蓋つきのにベッドに潜り込む。
見逃してくれることを祈りながら、じっと息を殺した。