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その日の夜、深夜である。


ルイの部屋に独り言が響いた。



『…無事到着なされた。ああ、二人とも、だ』



仕事のものしかない、部屋というよりかは仕事部屋という感じだが。

ここはれっきとしたルイの部屋である。


カサンデュールの言語で話す相手は、この間の兄であった。

リルの姉の夫であり、王族の兄。


『悪いなぁ、迷惑かけて』


『…本当だ、僕だって暇ではないんだ』


『しかも2人も』


『…どうせ執事を連れてくるなら、もう少し話のわかる年上を連れてきて欲しかったものだ』


よりによって同い年の執事なんて、執事とは言えないじゃないか。

しかし、年上の分別のつく大人の執事だったら、きっとまず逃亡を止めていただろう。


その点で言ったら扱いやすいのかもしれない。


『え?なんだ、お前知らないのか』


キョトンとした声で言う相手に、なんだ、と低い声で返すルイ。

弟とは違って若干軽い性格のようだ。


『あのティン・二グラスって執事、曰付きらしいんだ』

『あの童顔ミルクティーがか?』


武闘派でもなさそうだし、頭もそんなに良くない気がする。

そんな彼に何があるのだろうか。



『姫様は昔日本にいたらしいんだ。
で、あのティンは日本人らしいんだよ』


『あ、あれが日本人!?』


思わず叫んだルイだが、考え直す。

確かに、髪を染めただけのように見えないこともない。

目は黒いし、肌もどちらかといえば日本より…かもしれない。焼けてないと言われればそれまでだが。


『で、そのティンだけど、どうやら日本から勝手に逃げてきたらしいんだ。
両親と一人息子だったみたいなんだけど、離婚で親権を互いに放棄されそうになってたらしい。

そこで日本にいらっしゃった姫様と知り合って、姫様がカサンデュールに御帰還なされる時についてきたっていう話だ』


噂にしてはよくできている。

昔、リルは訳あってこちらで暮らしていた。

7歳でカサンデュールに帰ってきたが、生まれも日本である。

だからあんなに日本語が流暢なのだが、ティンもそうなのか。