◇◇◇

『こんにちわ』


そっと瑠璃から渡された受話器を手にすれば、聞こえたは踊るように喋るリルの声。

嬉しさと、言いようのない緊張。

第一声をどうしようか迷っていると、リルが声を出した。


『まずは家出、ご苦労さまですわ』


「……」

ご苦労さま、とはどういうことだろう。

皮肉かもしれない、とメイは怖くなった。


「あの、メイ……その」


『あら怯えた声になっちゃって…違うんですの、あそこは異常だったから、抜け出すことは賛成でしたわ』


「!」

まさかの回答に目を見張る。

彼女は賛成だったのか。


『私としては、いつまでもあの生活を続ける状況は看過できないですからねぇ。あなたが動いたことは私がなにか言うよりも衝撃でしたでしょう』


「リルちゃん……」


彼女はいつだって自分のことを考えてくれている。

メイ本人よりもずっと真剣に。

流されるままに生きてきたメイの、初めての抵抗。

それが推奨されているという環境は、いかに大きいか、リルはしっていた。


だからこそ批難よりも賛美の方が良いのだ。