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メイを眠りから覚ましたのは、一匹の猫だった。

ザラりと顔を舐めて、今まで味わったことのない感触に一気に覚醒する。

「ふあ!?」

驚いて飛び上がって、なんだ猫かとため息をつく。

猫を飼っていたのか。

そういえばトイレっぽいものがあった気がする。

全身ふわふわの真っ白……いや、耳と手としっぽが黒い。

若草のような綺麗な目をぱちくりして、メイを不思議そうに見ている。


「か、わいい……です、お名前はなんというですか?」


一瞬で虜になって、そっと手を差し出せば、ぷいと向こうを向いてしまった。

つれないところが猫の魅力か、と猫の先を見れば一一瑠璃。

飼い主の方に行っただけだったのか。


「……琅玕(ロウカン)、起こしちゃだめ」


すりすりと甘えたように体をなすりつけた猫。

ずいぶん変わった名前だ。

ネコといえばみーちゃんしか思いつかないメイだった。

「おはようです、瑠璃さん」

「……おはよう」


相変わらず無表情で、彼女は猫を抱き抱えて。

「…眠れた?」

「ええ!ぐっすり!疲れてたみたいです……ありがとうございました」


笑顔でそういえば無表情の目がすこしだけ柔らかくなった気がした。

意外表情があるのかもしれないと、もっと覗きこもうとして。


「朝ごはんできてるから」


ひらりとリビングに行ってしまった。