『え……なんですか?』
なにやら邪魔が入ったようで、受話器とは少し離れて何者かと会話をする。
日本語だから、どうせティンだろう。
『……ごめんなさい、瑠璃。もうそろそろ先延ばし無理っぽいです。あとで電話くださいね』
「…ううん、こっちこそごめん。いきなりかけて」
『いえいえ、頼ってくださってたいへん嬉しいです。それではまたあとで』
がちゃりと、通話が切れる。
相変わらず踊るように話す子だ。
どもったり小さかったり詰まったりする自分とは大違い。
でも、だからこそ、どこかこわいのだ。
すべて想定された上の会話のような、彼女の隙の無さ。
彼女はいつから、等身大でいることをやめたのか。
昔はもっと、子供らしかったのに。
(大きくなったんだから当然……か)
でも、それにしてもと思う。
子供のまま、外を知らずに育ったメイ。
まだ子供なのに、無理やり独りで立ち上がることになったリル。
共通点なんかなさそうだが、リルがあんなに愛しているわけ。
ああそうかと合点がいった。
憧れてるのか。
もしかしたらああいう子供でいることが許される存在が。
幸せにしたいと言っていたから、子供でいることが幸せとは思っていない。
ただ、少しだけああいう不幸が羨ましいのかもしれない。
子供でいさせてくれる人をとっくに失ってるあの人には。
「……リルこそ、頼りなよ……」
あの子が本当に辛い時、自分はそばにいなかった。
だって何もいわずに行ってしまったんだから。
気がついたらいなくなってて、頼りもせずに勝手に立ち上がって。
そして、不安定な高さで大人にまじろうとする。
隣に誰か人がいるだけで、立ちやすいことを彼女は知らない。
メイに教えたように、あの子にも教えねば。



