「食事は取られましたか?」
「……食べる気がしなくってな」
「社長」
「こうしている間にも、もしかしたらメイがお腹をすかしているかもしれない。寒さに震えてるかもしれない。そう考えると食事なんか取れなくて」
「……わかります。けれどお体は大事になさってください」
気持ちは痛いほどわかるが、看過できない。
切なさに胸がかきむしられる。
「なんでメイちゃんは急に家出なんて…。確かに傷は癒えてないようでしたが、以前よりかはまぎれてたのに」
「さあな、僕にもさっぱりだ」
ルイにもわからないなら、誰にもわからない。
「ただ、この置き手紙の文が感情のすべてなんだろうな」
【ご主人様へ。ありがとうございました。大好きです。ごめんなさい。さようなら】
驚くほど理由が書いていない。
感情しか書いていない文に、警察も心配していた。
「国語をもっとやらせるべきだったと後悔しているよ」
ふふ、と弱々しく笑う。
なんと言えば良いのかわからず、野崎はだまりこくる。
しばしの沈黙。
野崎は、メイを思い出していた。
手のかかる間の抜けた一一けれど、たまらなく愛らしい妹。
確かに国語力はなかった。けれど、だからこそダイレクトに伝わるものがあった。
言葉を飾る能力のないメイならではの、装飾品のないありのままの言葉。
理解力のなさに苦しむ毎日だったが、それが今はとてもほしい。
必死にどういう感情を持っているか伝えて欲しかった。



