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お昼前の、静かなカフェだった。

黒と白と茶を基調としたお洒落な落ち着いた空間。

人々はパソコンを開いたり談笑をしたり、思い思いに過ごしていた。


「……」


その中で青年はひとり、体中に汗をかきながら、ひとをまっていた。

夏ではないのに汗が止まらない。


「待たせた」


上から流暢な日本語が降ってきたので顔を上げれば、金髪の初老の男だった。

スーツ姿で、いかにも仕事ができそうだ。


「あ……い、いえ…」

「初めまして、だな。私はルコーラ・ヒューアスという」

「僕は、た、高遠光です…」

震えながら、彼は名前を述べた。

目の前の男は向かいの席に座り、ふむ、と鼻を鳴らす。

「そうか。来てもらって済まない」

いきなり見知らぬ電話番号から『カサンデュールについて教えよう』と言われれば来ないわけにはいかないだろう。

「僕は教えて欲しかっただけです…。ところで僕は何を話せばいいのでしょうか」

「まず、君がカサンデュールについて調べるようになった経緯と何をどこまで知ってるか、かね」


やっぱり。

これらは聞かれるだろうとは思っていた。


「僕には、交際している彼女がいました。
その彼女がある日泣きながら職場に来て、そして音信不通になった。
聞けば、そのヒューアス家のご令嬢の授業をしていた際に傷つけてしまったらしいんです。
それを主人が劣化のごとく怒り、挙句には消すぞと脅された。

……自分の好きな人がそれで怯えてるんです、調べないわけないじゃないですか」


高遠は、彼女に罪滅ぼしをしたいと思っていた。

彼女は自分のせいで傷ついた。

だから、大した国じゃないとかそういう証拠を掴んで、不安を取り除いて、あわよくば復縁を望んでいた。


するとどうだろう。


出てきたカサンデュールは、ただいま内輪もめの真っ盛りだというじゃないか。

前王女シャリル・ドリュール王女が日本で暗殺され、そこから後継者争いで揉めに揉めてると。


もちろんそんな情報よりも、高遠は敵に回したらやばいのかどうかだけ知りたかったのだが。

聞けば、出ていった姉がルイの屋敷に勤めてるというではないか。

焦って手紙を出し、その家の危険さを教えた矢先であった。



ルコーラからの接触は。