何故!、あれほどの想いを伝える演奏なのに、拙い演奏だったのか?



何故? 鶴岡八幡宮で猫を抱いていた男性に、懐かしさを感じたのか?


詩月は演奏しながら、しきりに考えた。



フォーレ「夢のあとに」は、恋を失った痛みを歌った曲だ。


オペラでは叶わぬ恋を嘆きながら、切ない歌詞が歌い上げられる。




それでも、恋は叶う。
望みを捨てない。
まだ終わっていない。
何もかも失ってはいない。
恋は実るものだ――と。




夕暮れのヴァイオリン演奏には、諦めきれない想いを感じた――。



詩月は、母親が演奏家を目指していた時に弾いていた、母親の思い宿るヴァイオリンを思い切り奏でる。