詩月は弾きながら拙いヴァイオリン演奏を思い出していた。



夕暮れの中、聴こえてきた途切れ途切れの「宵待草」と、その暖かい響きを――。




辿々しい音にも関わらず、胸の奥底までも迫ってくる想いに、思わずヴァイオリンを取り出し共に、奏でたひと時を――。



郁子と話したサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」と、滝廉太郎の「荒城の月」とフォーレ「夢のあとに」の音階の相似――。



荒廃した古城跡の寂しい風景と「待ち人来たらず」の憂いを帯びた調べにリリィを思い浮かべ、リリィと共に写真におさまった青年の姿が思い出された。



明け透けの想いを解放したような、夕暮れに響いたヴァイオリンの音色。