「僕もヴァイオリンを習いたい」



詩月が母親に言った時、彼女は即答しなかった。




母親がまだ、演奏家を目指し弾いていた時、愛用していたヴァイオリンは、教室のショウケースの中に飾られていて、オールドヴァイオリン独特の艶やかで奥深い光沢を放ち輝いていた。




　数日後。

母親はショウケースの中から、オールドヴァイオリンを取り出し、優しくヴァイオリンに指を添え、ゆっくりと弾き、こう言った。



「親子というのは弾き方が自然と似てしまうの。

だから、わたしは貴方に教えられない」



詩月はその言葉を母親のヴァイオリンを見つめながら、寂しさと悲しさで涙をためて聞いていた。



「お父様とも相談して、ヴァイオリンの先生を決めたから、貴方はその先生に教えて頂きなさい」



そうして、詩月は母親に連れられ初めてリリィに会った。