狂ったように暴れるあたしを、祐輔が抱きしめて押さえる。


あたしの名を叫ぶ祐輔の声も、涙で震えていた。


「佳那! 佳那!」

「大樹ーー!!」

「頼むから・・・・・・オレの言葉を聞いてくれ!」


あたしの耳に祐輔の声は届かなかった。


耳も、目も、言葉も、心も、ひとつの望みに支配されていた。


「大樹ー! お願いだからここへ来て!」


戻って来て!


ここへ! この場所へ!


あなたの望んだ、この場所へ!


あたしを守ると誓った言葉は、もう忘れてもかまわない!


この恋が叶わなくなっても、いい!


だからそれと引き換えに、せめて・・・・・・



・・・せめて、ひと目だけでも桜を!



あなたの望みを、たったひとつだけでも!



あたしの叫びが中庭に響いた。


流れ続ける涙が、叫び続けるあたしの口の中に入る。


渇いた口の中が、涙の味で湿った。


枯れ果てた声で、ただひとつの望みを叫び続ける。


決して叶うはずのない、むなしい望みを。



あたしを抱きしめる祐輔の腕が震える。


すすり泣く祐輔の涙が、あたしの頬に流れて落ちた。



命を謳歌するように、美しく咲き誇る残酷な桜の庭。


あたしと祐輔は、その庭で耐えがたい永遠の喪失に苦しむ。


それを認めるすべも、受け止めるすべも知らずに。



ただひたすらに、泣き叫び、もがき苦しんでいた・・・・・・。