「あ・・・・・・」


大樹の笑顔が、真紅に染まる。


彼の血の色に。



『ごめんよ。佳那、許して』


「あ・・・・・・あ・・・・・・」


大樹が泣いている。


血に染まりながら泣いている。


泣きながら・・・・・・許しを求めている。



『どうか許して。・・・誓いを守れなかったボクを』



頭の中の大樹の記憶。大樹のすべて。


それが全部、赤い色に染めつくされた。


見えない。


もう大樹の姿がどこにも見えない。


彼の記憶の全部が、もう、もう・・・・・・。


苦痛と、恐怖に溺れ、そして・・・・・・



「あああぁぁぁーーーーー!!」



あたしは声を張り上げ、泣き叫んだ。


「嫌だあぁぁ! 大樹ーーーーー!!」


「佳那! しっかりしろ!」



祐輔の腕があたしを強く抱きしめる。


あたしはその両腕の中から、懸命に手を伸ばした。


大樹を探し求めて。


でも手の中にはなにも無い。


どんなに求めても、あたしの望むものは無かった。


その向こうに、高く立つ桜の木だけが見えた。


大樹が見たいと望み、ついに果たされなかった桜の木が。