そして翌日の、大樹が出発する朝。


あたしは自分の部屋の窓から空を見上げていた。


よく晴れた青い空の光に照らされた、白く光る大きな雲を見上げる。


あたしは大樹を見送れない。


あたしと大樹の仲は、いまだに秘密だから。


でも、これまでと違ってあたしの心は落ち着いていた。


あたしの指に光る赤い指輪。


この指輪が、大樹の存在を身近に感じさせてくれていたから。


『佳那。すぐに帰ってくるからね』


大樹のその言葉を信じて、待つことができる。


あたしたちは離れ離れじゃない。


こんなにも確かに、そして強く結びついている。


なにも怖くなんかない。


別れ際のキスを思い出して、あたしの心は切なくなった。


たまらなくなって指輪にキスをしながら、心の中で大樹に語りかける。



早く戻って来てね。大樹。


そして抱きしめて。


そしてまた、あたしにキスをして・・・・・・。



指輪をはめた手を、ギュッと胸に押し当てる。


あたしは、大樹のいる場所へ続く空を見上げつづけていた。