大きな水場の隣の東屋にお母さんと並んで座った。
周囲に人影は無く、お母さんとあたしのふたりきり。
どうしても視線が下を向いてしまう。
だって緊張しちゃうよぉぉ。
初対面だし、親や担任以外の大人となんて、まともに会話したことないし。
女同士おしゃべりしましょ、って言っても何を話すの? この年齢差で。
盛り上がる話題なんて見当もつかない。
ね、年金問題とか?
うーんと、あ、次の衆議院議員総選挙っていつだっけ?
「奥村さん、ほら見て」
必死に話題をひねり出していると、そう話しかけられた。
顔を上げて、お母さんの視線の先を見ると・・・・・・。
「あ・・・・・・」
そこに
桜・・・が。
霊園を取り囲むように、数えきれないほどの桜の木が。
一面、その身を薄紅に染めていた。
「本当に見事ね」
「・・・・・・・・・・・・」
「日本の春って、とても美しいと思わない?」
「・・・あたしは、嫌いです」
「え?」
お母さんが、薄紅の景色からあたしに視線を移した。
不思議そうな顔をしているその顔に、あたしは繰り返す。
「あたし、春が嫌い。桜が大嫌いです」


