亜美は少し笑みを浮かべながら私達の方に向かって歩いてきた。


そして私達の前まで来ると、その薄い桜色の唇を開いて言葉を紡いだ。


「何の話をしていたの?」


その声色は、とても穏やかで、怖かった。


笑顔を浮かべているのに、恐ろしかった。


私は侑也の肩から手を離し、侑也に背を向けて亜美の方を見た。


「ちょっと、質問していただけだよ」


そうなんだ、と亜美は言った。


「それで、私に何の話があるの?

講堂裏に呼び出すなんて、誰にも聞かれたくない話があるんでしょう?

まぁ、吉崎君には聞かれてもいいみたいだけど」


ちらりと吉崎君の方を見ながら、亜美は言った。


吉崎君は目を鋭くしながら、私達を見ていた。


「亜美に聞きたいことがあるの」


私は両手をぎゅっと握りながら言った。


「亜美が、私に関する噂を流したの?」


私が吉崎君と付き合っている、だとか。

私が浮気してるんじゃないか、だとか。

亜美から侑也を奪って付き合った、だとか。


あの日廊下で聞いた言葉が脳内を駆け巡る。


亜美は少しの間黙ると、口を開いた。


「話、聞いていたのね」


侑也ほど驚いた様子はなかったけれど、表情から穏やかさが消えた。


「そうよ。

噂を流したのは、私よ」


亜美ははっきりと言い切った。


「どうして、そんなことするの?

私達、親友じゃん。

そうでしょ?」


私は亜美の肩を掴んで揺らしながら尋ねる。


亜美はその手を払い、私はしりもちをついた。


「った!」


亜美を見上げると、彼女は冷たい目で私を見下していた。


「…親友?」


亜美は笑みを浮かべた。


「うららがそう思ってただけでしょう?」


「亜美…」


絶望が胸をいっぱいに満たしていく。


苦しい。


痛い。


心が、こんなにも痛い。


「嘘よ」


その言葉に思わず顔をあげた。


亜美の顔が近くにあった。


いつもの笑顔で私を見つめている。


「え…?」


心が少し軽くなるような感覚がした。


やっぱり私達は親友で、亜美は噂を流してなどいなくて、私を裏切ったりしていなかったんだ。


亜美は私の大事な親友。


そんな希望で満たされつつある私に、亜美は言った。


「そう、全部が嘘なのよ」



優しい口調で残酷な言葉を紡いでいく。