「嘘、だよ」

か細い声で反論する。


「嘘だよ!だって、あの時!」


侑也と亜美の話を盗み聞きした時、亜美が言っていた。


『うららに一目ぼれしたようなフリをして、甘ーい言葉で告白して付き合ってるんですもの。

それにバカップルみたいなフリまでしてね』


確かにそう言った。


「一目惚れしたようなフリをしたって!バカップルみたいなフリをしたって!亜美がそう言っていたじゃん!」


侑也はニコニコと笑ったままだった。


声を荒げる私をその優しそうな瞳で見ていた。


「そんなことまで聞いていたんだね」


侑也は言った。


恐ろしいほど穏やかな口調だった。


「好きだよ」


何度も繰り返すように言った。


「でも、亜美と付き合って…」


「終わらせようか?」


付き合っているんでしょう?


そう聞く前に、私の言葉を遮るように、侑也は言った。


「亜美との関係を、終わらせようか?」


侑也が私との距離をどんどん詰めてくる。


私は少しずつ後退りをしながら聞き返した。


「な、何を言って…」


「亜美とは別れて、うららだけと付き合うってこと。

僕はうららが好きで、うららも僕が好き。

好き同士の2人が付き合うことに何の問題があるの?」


侑也は笑顔を浮かべたまま私の腕を掴んだ。


「えっ、ちょっと!」


「うららが好きだよ」


まるで洗脳するように。


侑也は耳元で囁いた。


「うららも、僕が好きでしょう?」


ギリギリと握られた腕の力が強くなる。


「痛いって!」


「うららは好きなんだよね?僕のこと」


私は侑也が好き?


自分に問いかけてみる。


はっきりした答えは出てこない。


私が好きなのは、誰だっけ?


もう一度問いかける。


様々な顔が浮かんだ。


お父さんとお母さん。


おじいちゃん、おばあちゃん。


近所のおじさん、おばさん。


クラスメイトの梨花ちゃん、唯ちゃん。


親友の亜美。


彼氏の侑也。


みんな、好き。


だけど、恋愛対象として好きなのは誰だっけ?


私の好きなひとは、誰だっけ?


その時、ある顔が思い浮かんだ。


それは侑也の顔ではなかった。




「ち、がう」


顔をあげて、侑也の目を見据え叫ぶようにして言った。


「違うって…?」


「私が好きなのは、侑也じゃない…!」