次の日、私はクラスに向かうことにした。


その足取りは決して軽やかじゃない。


クラスメイトから何を言われるだろうと思うと、足がすくんでしまうほど怖いし、正直行きたくない。


だけどそれ以上に亜美や侑也と仲が悪くなって疎遠になってしまう方がずっとずっと嫌だから、足を進める。


教室の扉の前で立ち止まった。


扉に触れた瞬間、脳裏にあの時の声が蘇る。


『ヒドイ』

『サイテー』


昨日からずっとこびりついて離れない。


所在のない孤独感に急に襲われる。


ああ、嫌だ。


怖い。


この扉を開けることが、

この扉の向こうに行くことが、


皆と会うことが、


怖くて怖くて仕方がない。


扉に触れていた手をぎゅっと握った。


この扉を開ける。


たったそれだけのことができない。


恐怖で立ちすくんでしまう。



目を瞑ると、声が聞こえてきた。


それは誰とも分からない、生徒の楽しそうな笑い声。



あぁ、もういっそこのまま、帰ってしまおうか。


帰りたい。


教室に行きたくない。


みんなに会うのが怖い。


また明日にしようか。


別に、今日じゃなくてもいいじゃないか。


今日絶対に行かなきゃいけない理由なんて、どこにもない。


そう自分に言い聞かせて、扉から手を離そうとした時だった。



『聞かなきゃ、何も分かんねぇだろうが』



吉崎君の言葉を思い出した。


その言葉はどれもぶっきらぼうだ。

鋭い矢のように胸に突き刺さる。

いちばん心の弱いところをピンポイントで突いてくる。


それなのに、どこか包み込まれるような優しさを感じるんだ。



そんな魔法みたいな吉崎君の言葉を何度も繰り返し思い出しては、言い聞かせた。



『大丈夫だ』



私は、大丈夫。



『何があっても、あんたは絶対に独りにはならない』



だって、独りじゃないもん。



『俺がいてやる』



吉崎君がいてくれるから。



『今度は忘れんな』



忘れてないよ。


今度は、忘れないよ。



吉崎君の言葉を抱きしめるように、何度も何度も繰り返し思い返した。



私は、独りじゃないから。


何があっても、独りにならないから。



だからきっと、大丈夫。



何度も心の中で繰り返して、がらりと音をたてて扉を開けた。