「いいじゃない!みんなで見ましょうよー!」


乗り気な亜美は私の腕を引っ張って、人混みへと向かって歩く。


「ちょっ、亜美!?亜美さん!?」


誰か助けて、と思ったけど、侑也はノリノリだから助けてくれそうにない。

吉崎君は面倒くさそうにまたあくびをしてこちらを見てもいない。


絶望の中、人混みの中に引きずり込まれる。

辺りを見渡せば人でいっぱいだ。

歩くたびに、両の肩が人とぶつかる。

「すいません!」

謝った声も人のざわめきでかき消される。

ぶつかった相手すらもう見えない。


前を見ても、人ばかりでそれ以外に何も見えない。


私の腕を引っ張って歩く亜美との差が徐々に広がっていく。


「ちょっ、亜美、待って!」


その声すら、大勢の行きかう人々に阻まれて届かない。


亜美がどんどん遠ざかっていく。


この歩道にいる大勢の人に隠されるように、その姿がどんどん見えなくなっていく。


私の左腕をしっかりと掴んでいた亜美の右手が、どんどん手の先へ、指へとずれていく。


「亜美!」


名前を呼んだちょうどそのとき、するりと亜美の手が私の指から離れた。


途端に孤独感が襲う。


「待って!」


声は全く届かない。


ここは、どこだ。


みんなは、どこだ。


不安に思って立ち止まると、後ろからぶつかってきた知らない人に、急に立ち止まるな、と怒られた。


「亜美! 侑也! どこにいるの?」


叫んだ声も、雑踏にかき消されてしまう。


どうしよう。


途方に暮れたその時だった。


誰かが私の右手を掴んだ。


振り返ると、そこにいたのは。


「何やってんだよ」


吉崎君、その人だった。


「あんた、香宮(かみや)と一緒にいたんじゃなかったのかよ。仲良く手を繋いで」


「あ、亜美とは、はぐれちゃって…」


馬鹿か、と吉崎君は溜息を吐いた。


「高校生にもなって、はぐれて迷子になりかけてんじゃねぇよ」


あまりにも正しいことを言うから反論できない。


「っていうか、吉崎君は帰ったんじゃなかったの?」


「あんたがぼけっとしてこの人混みの中で迷子になってるんじゃないかと思っただけだ。

ま、思った通りだったな。

香宮と一緒にいたはずなのに、はぐれて迷子になってるし」


「うっ…」


本当に何も言い返せない。

まるで幼い子のように仲間からはぐれてしまう自分が恥ずかしい。