「あっ、ねぇ、あれを見て!」

亜美が突然声をあげた。

「何、あれ」

私は茫然とした。

彼女が指差す先にあったのは、沢山の人だった。


ここは大きな道路に平行するようにある歩道。

道路の反対側には沢山のお店が立ち並び、平日の夕方でも沢山の人がいる。

けれどこんなに、ごった返したように人がいるというのはあり得ない。

まるで花火大会の会場に来たような、そんな感覚だ。

歩くスペースもないほど、人でいっぱい。

目を離せばみんなとはぐれてしまいそうだ。


「すごく沢山の人がいるね」


侑也は何事かと少しワクワクした様子で辺りを見渡した。

その姿が少年のようですごく可愛い。


「何だ、イベントでもあんのか」


可愛らしい反応をする侑也とは対照的に、吉崎君は眉間にシワを寄せ、制服のポケットに手を突っ込み、嫌悪感を隠すことなく、気だるそうにそう言った。

本当に侑也とは真逆だ、と思わず溜め息を吐いた。

もう少し愛想よく笑えばいいものを。

この人はきっとこの表情のせいで損をしているに違いないと思った。


それにしても、この人だかりは何だろう。

歩道にいるみんなが車道の方を見て、何かを待っているようだ。


「ああ!そうよ!」


亜美が声をあげた。


「これ、凱旋パレードよ!」


パッと明るい顔をした亜美に、他のみんなが首を傾げた。


「凱旋パレード?」


何の事だかさっぱり、という私達に、亜美は説明した。


「ほら、この前、私達の市のサッカーチームが優勝したでしょ?

それで、チームの人たちが凱旋パレードするのよ!」


そういえばそんなことを今朝聞いたような、聞いてないような。

亜美はなんでもよく知ってるなあと感心していた時だった。


「へえ、それでこの盛り上がりなんだね!」


侑也は楽しそうな声でそう言った。


「見ていく?」


亜美の提案に、私は首を横に振った。


「いいよ、こういう人が多いの、そんなに好きじゃないし」


それにサッカーのこと、私はよく知らないし。


「俺、もう帰りたいんだけど」


吉崎君はあくびをしながらそう言った。

心底面倒くさそうだ。