喫茶店から出ても、吉崎君と侑也の漫才みたいなやり取りは続いていた。


「僕、ミルクチョコレートってあんまり好きじゃないんだ」

「へぇ、そうなのか。それは俺も同感だ」


珍しく意見が合致したみたい。


甘党の侑也がミルクチョコレートがそんなに好きじゃないなんて意外だなあと思っていると、次の瞬間侑也がとんでもない理由を言った。


「ミルクチョコレートって甘さが足りないよね。砂糖が圧倒的に足りていない。あとはまろやかさも。もうちょっと牛乳と砂糖の量を増やしてくれないと食べられないよね」

「いや、十二分に甘いだろ?!子供だって喜んで食べてるじゃねぇか!」


侑也は首を横に振った。


「いや、まだまだ全然甘さが足りてないよ」

「どこがだよ?!」

「全体的に」

「...あんた、相当の甘党だな。それ、異常だぞ」


確かに吉崎君の言う通りで、侑也の甘いもの好きは普通ではない。

甘党と一言で括ってはいけないのでは、と思うほど侑也は甘いものを愛している。

彼の体のほとんどは砂糖でできているのではと最近私は疑っている。


「甘いものは僕の幸福だよ。甘ければ甘いほど、僕は幸せになれる。甘いものは僕の力の源だ」


侑也は満足げにそう言っているけれど、吉崎君はもうすっかり侑也に呆れている様だ。


「…寅木の感覚を理解できねぇ。理解できる気がしねぇ」

眉間にしわを寄せて、吉崎君が言った。


「甘いもの、美味しいよ?」

「あんたの好きな甘さは異常なんだよ!」

「え?どこが?普通だよ?」


侑也は真顔で答えた。

吉崎君は眉間に寄せているしわを更に深くした。


「あんたのその味覚が普通だったらこの世は終わりだっつの」

「大袈裟だなあ」

「どこがだ!」


ああだこうだと言い合っている2人の姿を見ていると、自然と口元が弛んだ。

侑也に仲良しな友人ができたのだと思うと、自分のことではないのに嬉しいと感じる。

相手が吉崎君だから、余計にそう思うのかもしれない。


吉崎君はクラスにいるときも、吸血鬼と対峙するときも、誰かと話していても、独りに見えてしまうから。


そんな姿がすごく切なくて、胸がぎゅっと締め付けられるから。