ちらりと吉崎くんを見上げた。


吉崎君の横顔って、こんなに綺麗なんだ。


そんな、罰当たりなことを思ってしまった。


私には、侑也という最高な彼氏がいるというのに。


「吉崎君が学校をさぼる理由は、これなの?」


「これ、とは」」


「吸血鬼を退治するために、学校をサボってんの?」


すると吉崎君は「まぁな」と返事した。


「早く一人前の吸血鬼ハンターになりたいし、仕事の方を優先させたかったからな。

学校側に無理を言って、聞いてもらった。定期テストで一定の点を取れば授業の出席に関係なく単位をもらえることになった」


吉崎君の目は真っ直ぐだった。

それだけ意志が強いのだと思わざるを得ないほどだった。


「どうして吸血鬼を退治することを優先させるの?」



「吸血鬼が嫌いだからだ。何よりも」



吉崎君の声色は固かった。


「あんただって分かっただろ。

吸血鬼は人間に対して害を与える。

そんな吸血鬼を許すわけにはいかない」


今日実際に吸血鬼を見て、確かに怖いと思った。

回された腕の力の強さ。

血に対する執着心。

どれもこれも、恐ろしかった。


「あ、そう言えば」


ふと思い出して、吉崎君に尋ねる。


「吸血鬼が、私のことを『ファイ』って言ってたよね?

『ファイ』って、何なの?」


吉崎君は急に立ち止まった。


「ファイは、吸血鬼が好む甘い血液のことだ」


吉崎君は再び歩き出した。


「ファイ、つまり、黄金比。

血液を構成する成分が、吸血鬼がいちばん甘いと感じる黄金比である血液のこと。

更にはその血を持つ人間のことも指す」


「ふーん…そのファイの血を持っている人ってのは結構いるの?」


すると吉崎君は、いや、と答えた。


「ファイの血を持つ人間は非常に稀だ。

滅多にお目にかかれるもんじゃねぇ。

俺も資料ではファイの存在は知っていたが、実物はあんた以外には見たことはねぇよ」


非常に稀って、私が?

滅多にお目にかかれる存在じゃないって、私が?


吉崎君はため息を吐くと、私の方を恨めしそうに見た。


「何嬉しそうな顔をしてんだよ」


ギクッとして体が固まった。