振り返った時には、もう遅かった。


「アァ...甘イ...甘イ 香リ…!」


グッと首を絞めるように私の首に回された白い腕。


「なっ!?」


胸の下の辺りにも腕を回され、身動きが取れない。


恐る恐る見上げると、それは。


白い肌に、赤い瞳。


口から覗く、鋭い牙。


人間とはかけ離れた、その姿。


「吸血鬼がまだ隠れていたとはな」


吉崎君は舌打ちした。


「血ヲ クレ…!」


息を荒くする吸血鬼。


首に回っている腕の力が強くなる。


「いやっ!」


抵抗してもびくとも動かない。


息が、苦しい。


呼吸が、難しい。



「おい」


吉崎君が吸血鬼に話しかけた。


「そいつを離せ」


拳銃の銃口を、こちらに向けて。


「オマエ、ハンター カ?」


吸血鬼は吉崎君の方を見た。


「あぁ、そうだ」


「ナラバ、オマエハ 『コレ』ノ血ガ何ナノカ分カッテ イルダロウ?

『コレ』ハファイダ。

アノ貴重ナ ファイ ノ 血 ヲ 持ツ女ダ!」



吸血鬼は私のことを"コレ"と言った。


この吸血鬼は私のことを単なる獲物としか見ていないのだろう。




「俺にはこいつがファイだとかなんだとか、そんなことは一切関係ねぇ」




吉崎君は掠れた声で言った。




「こいつは人間だ。

それ以外の何者でもねぇよ」




掠れていて、決して大きい声ではないけれど、でも心のある強い口調だった。