オムライスを食べ終わり教室に向かっている最中、亜美はトイレに行くと言い出した。


そこで私と亜美は別れて、私は一人で教室に向かっていた。


その時だった。


「おい、あんた」


背後から声が聞こえ、体が固まった。


混雑する廊下の中でもその声ははっきりと耳に届いた。


恐る恐る振り返ると、そこにいたのは。


「げっ…」


最低最悪、吉崎聖。


「げっ…ってなんだ。失礼な」


吉崎君は不服そうに眉をひそめた。


「えーっと、吉崎君、私に一体何の用?」


吉崎君の眉がピクリと動いた。不機嫌全開だ。


「あんた、昨日の話、忘れてないよな?」


昨日の話。


きっとそれは。


『あんたには俺の言うことを聞いてもらう』


このことだろう。


「…忘れて、ないけど」


「じゃあ今から来い」


なんでそういうことをしれっと、さらっと言うかな!?


「どこに来いと? あと10分で午後の授業が始まるんですけど!?」


しかも次の授業は遅刻に厳しい英語の先生だ。


命が惜しければサボリなんてしてはいけない。



ポケットに手を突っ込んだまま、吉崎君はかったるそうに言った。



「別に、あんたが来ないなら来ないでもいい。あんたが来ないなら、俺はあんたに金輪際協力しないがな」


挑発されてる、そう思った。


けれどこれが単なる挑発ではなく、吉崎君の本心であるとも思った。


…なんて、厄介なんだろう。


「…分かった。行くよ。それで私はどこへ行けばいいの」


半分諦めてそう聞いた。


すると吉崎君はあっさりとした口調で言った。


「俺について来れば分かる。帰る支度して来い」


「はあ?帰る支度って、なんで!?どこに行く気!?」


「学校の外」


なんともあっさりと出てきたその単語に、冷汗が止まらない。


「授業は?」


「関係ねぇ」


さぼる気全開だ、この人。


授業にはでなくてはならないという意識の欠片も見当たらない。


「私には関係あるんだよ、ばか!」


「俺にばかと言うなんざ10万年早いんだよ、ばかが。俺よりあんたの方がよほどばかだって分かってないのか、このばかが」


吉崎君は不機嫌そうに言った。