「で、でも、どうして?」


「吉崎君ってテストの日以外は学校に来ないわよね?」


亜美の言葉に頷いた梨花ちゃんは更に言った。


「そのはずなんだけど、ここ数日学校に来てるんだよ!」


「不思議だよね」


唯ちゃんが言った。


「ど、どうしたんだろう?」


「真面目になった...とか?」


「そんなわけないよ!」


ひそひそと小声で話していると、ギロリと睨まれた。おー怖!


「吉崎くんって、クールな感じで落ち着きもあるし、整った顔立ちだし、運動神経も良いし、頭も悪いわけじゃないから、モテていても可笑しくないのに...」


ヒソッと唯ちゃんが呟いた。


「あんなに恐い目付きをしなかったらモテるでしょうに」

「もったいないねー」


亜美と梨花ちゃんが溜め息を吐いた。


そこで1限目開始を告げるチャイムが鳴った。


私も席に着こうとして、ハッと思い当たった。


私の席は、いちばん窓際の後ろから1つ前。


それって、つまり。


吉崎君の前の席だ。



さっきの鋭い目を思い出す。


背筋が凍るような、恐ろしい瞳。


私は緊張でいっぱいになりながら自分の席に向かった。


どのくらい緊張したかというと、緊張しすぎて右手と右足が同時に出たくらいだった。


席に着く瞬間、ちらりと吉崎君を見ると、視線がぶつかった。


「...あんた、馬鹿?」


彼は溜め息混じりにそう言った。


ちょっと待って!?


反論しようとしたところで、学級委員が号令をかけた。


私は拳を握って叫びそうになる衝動に耐えていた。



右手と右足が同時に出たのは、自分のことだがさすがに馬鹿だと思った。


それにもともと私は頭がそれほどいいわけじゃない。


それは分かっているけれど。


十二分に分かっているけれど。


でも、初めて話す人に対して馬鹿なんて、そんなこと普通言う?