「莉乃、そろそろ戻ろう」



その声にハッとした。


そしてぼんやりしていたことに気付く。


胸の痛みだけがそこにはあって、辛いけどどうすることも出来ない。



腕を引かれて病院の中に入ると、シロー君は部屋には戻らずに2階のテラスへ私を連れて行った。



お互い無言のまま静かな時間が流れる。



気を抜くと、また涙が溢れて止まらなくなりそうだった。



「ごめん……っ、わた、し……なにも」



なにもわかってなかった。


本当に


なにも


シロー君の気持ちをなにひとつ……。



“莉乃にはわからない”


本当にその通りだ。


あの時


ここでシロー君に偉そうに言った自分が恥ずかしく思える。



今日樹里ちゃんの死を目の当たりにして、初めて“人の死”というものがわかった。