「混むから券買いに行こうか。時間までここで潰そう」


さりげなく繋がれた手にどきどきした。


「(そっか、彼女、だもんね。手だって繋ぐよね)」

「葵? どうしたの」

「(葵って言われた……!)」


ぐはあ、と心臓にクリーンヒット。


まだ慣れない名前呼びと、溶けるみたいな和泉くんの笑顔。


「ごめん、手繋ぐの嫌だった?」

「嫌じゃないよ!」


気を回してくれた和泉くんがおかしな勘違いをしているので、慌てて否定。


嫌なもんか。

嫌なんて絶対絶対言わないもんね。


じゃあ何、とでも言いたげな和泉くんの、うろんなまなざし。


「あの、えっと」

「うん」


どもるのは、恥ずかしさと少しの照れくささから。


「い、和泉くんの彼女っていいなあって、思って……」


和泉くんが長い間沈黙したものだから、失敗したかと焦ったけど。


「…………終わったら余裕ある?」


かすれた質問に、知らず笑みが深まる。


「うん、今日は一日空いてるよ。お金も多めに持ってきたけど、何で?」

「ご飯。食べに行きたいなと思って」

「行く行く、和泉くんイタリアン好きだよね、イタリアン行こう!」

「ちゃんとデザート美味しい所行こうね」

「うん!」


幸せで、幸せで。


ふわふわした気持ちがあふれていて。


和泉くんが好きだなあと、思った。