今日も君に翻弄される。

あまりうるさくない、休日の、朝早く。


まだ空気が冷たくて、景色が白ばんで、人通りは少なくて。


賑やかでない時間帯の車は、登校時よりゆっくり進む。


音が百出する普段より、随分と穏やかだ。


穏やかさは通行人にも移るらしい。


直前の気まずさは、朝もやにだんだんと紛れて薄れていた。


「そうだ、秋庭さん」

「はい」


わたしの低い呼びかけに、和泉さんも静かに返事をした。


「今度分からない問題聞いてもいいですか」

「はい。もちろん」


それで、と和泉さんが続ける。


「席、空いていたら隣に座りませんか」

「はい。模試、終わったら残って復習していきませんか」

「はい。それで」


目的地は視界の左端、もうすぐ。


和泉さんがこちらを見る気配がしたから、わたしも和泉さんを振り返った。


「帰り、一緒に帰りましょう」


この頃会う度にしていたお誘いを、いつもより早く。


「はい」


頷いて、小指を出す。


「約束ですよ」

「約束します」


小指を絡めてくれたから、軽く握れば。


重い玄関扉を後ろから一緒に押してくれた和泉さんが、綺麗に笑った。